あいつはいつも音の隙間にいる
再生ボタンが押されるより前
何かが始まるその直前に
気配だけで立っている
名前はない
顔も曖昧だ
けれど確実にいる
歩いてるとふとした瞬間に
それじゃないと言ってくる
誰にも聞こえない声で
判断に殴りかかってくる
あいつは観客じゃない
批評家でもない
もっと厄介で
もっと近くにいる
あいつは整ったものを嫌う
言葉が綺麗にハマったとき
すぐに現れる
そういうの嫌いだ!
正しさは途中経過にすぎない
あいつはそこを壊しに来る
だからあいつなんて…
と思う
でもいなくなった瞬間
世界は虚ろだ
あいつは奪う
時間も達成感も
せっかく積み上げたものを簡単に潰す
これでいいを何度でも無効にする
でも不思議なことに
全て奪うわけじゃない
あいつが残すのは
削られきった芯みたいなものだ
そこに理屈はない
生きるというのは
結局あいつとやるということだと思う
まずなんでもあいつを通過しなければならない
あいつは優しくない
励ましもしないし褒めもしない
でも唯一信用できる存在でもある
なぜならあいつは嘘をつかない
あいつから逃げることはできないと思う
もっと楽な方法などないと思う
選択肢はない
削られ続けることを引き受けるだけだ
今日もあいつはいる
音の隙間で待ってる